【津田健次郎】声もパブリシティー権の対象に|AI声模倣訴訟の判決

結論

東京地裁は2026年9月30日、津田健次郎さんがTikTokの運営会社に動画の削除を求めた訴訟で、「人の声は人の肖像と同様に個人の人格の象徴」と述べ、声の無断使用がパブリシティー権の侵害に当たり得るとの考え方を示した。ただし動画はすでに削除されていたため削除請求は棄却で、今回の動画が実際に侵害だったかどうかの判断はしていない。「声も守られ得る」と裁判所が明言した点が最大のポイントで、津田さんの全面勝訴という判決ではない。

生成AIで有名人の声に似せた音声を作る事例が増えるなか、日本の裁判所が「声」の保護にどこまで踏み込んだのかを、報道をもとに整理する。公開日は2026年10月2日。

目次

津田健次郎さんのAI声模倣訴訟で声もパブリシティー権の保護対象と判断した東京地裁の判決の要点

東京地裁の判決の要点(報道をもとに作成)




判決のポイント

「声」の位置づけ

判決は、人の声は人の肖像と同様に「個人の人格の象徴」であると位置づけた。これまで日本の法律に「声の権利」の明記はなく、司法判断の例もほとんどなかった(ITmedia)。

侵害に当たり得る場合

実演家の声を無断で使う行為は、その声に商品の販売などを促す顧客吸引力があり、声を使う行為がもっぱらその顧客吸引力の利用を目的とするといえるときは、パブリシティー権の侵害に当たると解するのが相当、とした。

削除請求の結論

投稿者が5月29日にアカウントを削除し、30日以内の復旧申請もなかったため、動画データは6月28日の経過をもって運営会社のサーバから消えたと認定。削除対象はすでになくなっているとして請求を退けた。

判決が示した声のパブリシティー権侵害に当たり得るケースの考え方の図

判決が示した「侵害に当たり得る」ケースの流れ(整理図)

早稲田大学の上野達弘教授(知的財産法)は、弁護士ドットコムの取材に「日本の裁判所がこの考えを明言したのは初めて」と評価している。一方で、人の声がパブリシティー権の対象になること自体は、今年8月の法務省検討会の「解釈指針」にも明示されており、異論はなかったとも説明している。




訴訟の経緯

訴状によると、氏名不詳の投稿者が2024年7月から2025年9月にかけて、津田さんの声質に似せたナレーションを付けた都市伝説や心霊現象などの動画を少なくとも188本投稿した。フォロワーは21万人以上で、報道によれば投稿者は再生回数に応じた報酬として月50万〜75万円の収益を得ていたという。津田さんは2025年11月に動画の削除を求めて提訴した。

津田健次郎さんの声模倣訴訟のタイムライン

2024年の投稿開始から2026年9月30日の判決までの流れ

提訴時の状況や日本俳優連合の声明は津田健次郎さんがTikTokを提訴した際の記事、法務省の検討会の動きは生成AI「声の権利」法務省検討会の記事にまとめている。

双方の主張

津田さん側は、動画は津田さん本人のナレーションと混同させて視聴者を引き付けるもので、パブリシティー権の侵害に当たり、他人の商品・営業との混同を招く行為を禁じた不正競争防止法にも違反すると主張した。運営会社側は、問題の音声は「普遍的な男性の声」で、投稿者は「声真似が上手い友人の声をAIに学習させたデータ」と外部サイトで説明しているとして、権利侵害には当たらないと反論した。動画はすでに削除済みで、津田さんが裁判で争う利益はなくなったとも訴えていた。

津田健次郎さん側とTikTok運営会社側の主張の比較

双方の主張(ITmedia報道より整理)




判断されなかった論点

判決は、動画がすでに削除されていたため、今回の動画が実際に侵害に当たるかどうかを判断していない。上野教授は、次の点が示されなかったことを「いささか心残り」と述べている。

判決で判断が示された点と判断されなかった点の整理

判断が示された点と、示されなかった点

今回の動画は侵害だったのか

問題の動画が、もっぱら津田さんの声を利用したもので、その顧客吸引力の利用を目的としたものといえるのか。

運営会社の責任

仮に侵害だった場合、投稿者とは別にプラットフォームの運営会社が責任を負うのか。

損害賠償

今回の訴訟で津田さんは損害賠償を請求していないため、金銭面の判断もない。

上野教授はほかにも、本人の死後に権利がどうなるのか、どの程度の期間保護されるのか、本人の声と模倣された声の同一性・類似性をどう立証するのかといった課題が残っていると指摘している。

今回の判決が意味すること

声優や俳優にとっては、「声そのものが保護の対象になり得る」と裁判所が示したことが、今後の交渉や削除要請の拠り所になり得る。一方で、侵害と認められるには「声の顧客吸引力」と「もっぱらその利用を目的とする」という条件が求められるため、どんなAI音声でも直ちに違法になるわけではない。

なお、生成AIをめぐる別の話題としてはライザチャットのAI炎上と課金内容をまとめた記事もある。

読むときの注意点

個別の動画が違法と認定されたわけではない

今回の判決は、津田さんの声を模倣した動画そのものを違法と判断したものではない。「侵害だった」と受け取らないよう注意したい。

一般論としての判断

示されたのは「実演家の声を無断で使う行為が侵害に当たり得る条件」という一般的な考え方。個別のケースは、事情によって結論が変わり得る。

法的な判断は専門家に

自分の声やAI音声の扱いで悩む場合は、記事だけで判断せず、弁護士など専門家に相談してほしい。




まとめ

今回のポイント

2026年9月30日、東京地裁が「人の声は個人の人格の象徴」とし、声の無断使用がパブリシティー権の侵害に当たり得ると判断。動画はすでに削除されており削除請求は棄却。今回の動画が侵害かどうか、運営会社の責任などは判断されていない。

判決の詳しい内容は、ITmedia NEWSの記事や弁護士ドットコムニュースの解説記事でも確認できる。最新情報は各報道や公式発表で確認してほしい。

参考・出典

本記事の情報は2026年10月2日時点のものです。内容は報道に基づくもので、法的助言ではありません。





コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です