天の川銀河の中心付近の星間空間で、天然の糖「エリトルロース」が初めて検出されました。ラズベリーにも含まれるこの糖が、恒星や惑星が生まれる前の宇宙空間で作られていた——生命の材料が宇宙由来かもしれないことを示す発見として注目を集めています。この記事では、何が見つかったのか、エリトルロースとはどんな糖なのか、どうやって検出したのか、そしてなぜ重要なのかを、専門用語をかみ砕いて解説します。
- 天の川銀河の中心付近の分子雲で、糖の一種「エリトルロース」を検出
- 星間空間で糖そのものが見つかったのは初めて
- 生命の材料が宇宙で作られていた可能性を示す手がかりに
星間空間で初めて糖「エリトルロース」を検出
スペインの宇宙生物学センター(Centro de Astrobiología、CAB)の天文学者イサスクン・ヒメネス=セラ氏が率いる国際研究チームが、天の川銀河の中心付近にある分子雲の観測から、天然の糖「エリトルロース」を検出したと発表しました。研究成果は2026年7月13日付で科学誌「ネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)」に掲載されています。
これまで星間空間では、糖の材料になりうる単純な分子は見つかっていましたが、糖と呼べる構造をきちんと備えた分子が確認されたのは、今回のエリトルロースが初めてです。研究チームによれば、観測した分子雲の中では、より炭素数の少ない(3炭糖などの)単純な糖に比べて、エリトルロースが約8倍多く存在していたといいます。
エリトルロースとは?ラズベリーにも含まれる糖
エリトルロースは、炭素原子を4個もつ「四炭糖(したんとう)」に分類される糖です。私たちがよく知る砂糖(ショ糖)やブドウ糖に比べると小さな分子ですが、れっきとした糖の仲間です。研究では、四炭糖のケトース(糖の分類のひとつ)としては唯一存在しうる分子だと説明されています。
地球上でのエリトルロースは意外と身近な物質です。ラズベリーなどの果実に含まれるほか、日焼けをせずに肌を褐色に見せるセルフタンニング(サンレス・タンニング)製品にも使われています。「宇宙にラズベリーの糖?」と聞くと不思議に感じますが、化学的にはシンプルな糖なので、材料さえそろえば宇宙空間でも作られ得るというわけです。
炭素4個の小さな糖。ラズベリーやセルフタンニング製品にも含まれ、宇宙では単純なアルコールやアルデヒドから氷の中で合成され得ると考えられています。
どうやって見つけた?2基の電波望遠鏡で観測
検出に使われたのは、2基の電波望遠鏡です。ひとつはスペイン・マドリード北部のイエベス天文台にある口径40メートルの電波望遠鏡、もうひとつはスペイン南部シエラネバダ山脈にあるミリ波電波天文学研究所(IRAM)の口径30メートルの電波望遠鏡です。
観測の対象になったのは、天の川銀河の中心付近にある「G+0.693−0.027」と呼ばれる分子雲です。宇宙にある分子は、それぞれ固有の周波数で電波を出しており、いわば分子ごとの「指紋」のようなもの。研究チームは幅広い周波数を高い感度で調べ上げ、このスペクトル線のパターンからエリトルロースの存在を突き止めました。
分子雲とは
分子雲は、ガスと塵が集まった宇宙の雲のような領域で、やがて重力で収縮して恒星や惑星が生まれる「星のゆりかご」です。つまり今回の糖は、星や惑星ができる前の段階の空間で見つかったことになります。
なぜ重要?生命の材料が宇宙で作られていた可能性
今回の発見が大きく報じられているのは、「恒星や惑星が誕生する前の星間空間でも、比較的複雑な糖が合成され得る」ことを初めて具体的に示したからです。糖はエネルギー源になるだけでなく、生物の体を組み立てる材料や、RNA・DNAを形づくる部品にもなる、生命にとって欠かせない分子です。
その糖が宇宙空間ですでに作られていたとすれば、生命の材料が地球で一から生まれたのではなく、宇宙からもたらされたという道筋が現実味を帯びます。研究チームは、分子雲で測定されたエリトルロースの量をもとに試算し、約41億〜38億年前の「後期重爆撃期」と呼ばれる時期に、50万〜5000万トンものエリトルロースが地球の表面に届いた可能性があると見積もっています。
今回わかったのは「生命の材料になり得る糖が宇宙で作られていた可能性」であって、宇宙で生命そのものが見つかったわけではありません。あくまで生命の起源を探る手がかりのひとつという位置づけです。
今後の展望|次はRNAの糖「リボース」か
エリトルロースが星間空間で見つかったことで、研究者たちは他の糖も宇宙空間で発見できるのではないかと期待を寄せています。特に注目されるのが、RNAの骨格をつくる糖「リボース」です。生命の情報を担うRNAの部品が宇宙で作られていたことが確認されれば、生命の起源をめぐる議論はさらに前進すると考えられます。
今回の成果は、宇宙の広大な空間が、生命につながる分子を静かに育てる「化学工場」の役割を果たしている可能性を示しています。今後の観測で、どんな糖が宇宙のどこに潜んでいるのかが少しずつ明らかになっていきそうです。
よくある質問(FAQ)
エリトルロースとはどんな糖ですか?
炭素原子を4個もつ「四炭糖」に分類される天然の糖です。地球上ではラズベリーなどの果実や、日焼けをせずに肌を褐色にするセルフタンニング製品に使われています。今回の研究では、四炭糖のケトースとしては唯一存在しうる分子であると説明されています。
星間空間で糖が見つかったのは初めてですか?
はい。糖と呼べる構造をきちんと備えた分子が星間空間ではっきり確認されたのは、今回のエリトルロースが初めてとされています。これまで糖の材料になりうる単純な分子は見つかっていましたが、糖そのものの検出は初の事例です。
どうやって宇宙にある糖を検出したのですか?
スペインのイエベス天文台の40メートル電波望遠鏡と、ミリ波電波天文学研究所(IRAM)の30メートル電波望遠鏡を使い、天の川銀河の中心付近にある分子雲G+0.693−0.027を観測しました。分子が出す固有の電波(スペクトル線)の指紋を読み取ることで、エリトルロースの存在を突き止めています。
この発見はなぜ重要なのですか?
恒星や惑星が生まれる前の星間空間でも、比較的複雑な糖が自然に合成され得ることを示したためです。生命の材料となる分子が宇宙で作られ、隕石などで地球に届いた可能性を裏づける手がかりとなり、生命の起源を考えるうえで大きな意味を持つと考えられています。
まとめ
- 天の川銀河の中心付近の分子雲G+0.693−0.027で、糖「エリトルロース」を検出
- 星間空間で糖そのものが確認されたのは初。研究はNature Astronomyに掲載
- エリトルロースは炭素4個の糖で、ラズベリーなどにも含まれる身近な物質
- イエベス40m望遠鏡とIRAM 30m望遠鏡の観測で、分子の電波の指紋から特定
- 生命の材料が宇宙で作られ、地球に届いた可能性を示す手がかりに
「宇宙にラズベリーの糖?」という意外なニュースの裏側には、生命はどこから来たのかという根源的な問いがありました。星のゆりかごである分子雲で糖が見つかったことは、私たち自身のルーツを宇宙にたどる小さな、しかし確かな一歩と言えそうです。
本記事は2026年7月時点で公表された研究発表および報道をもとに作成しています。研究内容の詳細や最新の解釈については、掲載誌および研究機関の公式発表をご確認ください。
コメントを残す